創業日記 vol.1 / Lens, Inc.

2022/8/18に株式会社レンズを設立しました。

ロゴはないですが、好きなカラー / #0277FC

Origamiのメルカリグループ入りから約3年半が経過し、2023/6/30をもって、メルカリ、メルコインを卒業し、2023/7/1より株式会社レンズに専念をしております。設立に携わったメルコインが100万ユーザーを達成したようで誇らしい限りです。

メルコインの仲間が送別会をしてくれました。お世話になりましたmm

Lensが取り組む事業ドメインは、リスク・セキュリティです。主に大企業・エンタープライズにSaaSを提供するところから始めました。ありがたいことに専念当初から導入をいただきサービスは本番提供しているのですが、サービスサイト等はまだないので、どこかで、具体的に何をしている会社なのかは別途書きたいと思います。

株式会社レンズは、6月決算の会社としました。決算期を迷うケースが多いと思いますが、8月に登記したので1期が長くなるように3, 6, 9, 12月の中から選びました。メルカリも6月決算で、自分の退任のタイミングも6月で結果的にちょうど良かったです。

2022/8–2023/6が会社の1期ですが準備期間のため、専念し始めた2023/7–9が事実上の1期1Qです。最初の四半期を終えたこともあり、せっかくなので振り返りをしていこうと思います。本当の創業ストーリーはvol.0としていつか書こうと思います。Twitterの創業メモ

なお、Lensは、shingo & takashi の2名の共同代表で創業した会社です。

・はじめに

事実上の1期1Qが始まる前に、毎週末、shingo & takashiで集まって、プロダクトコンセプトのブラッシュアップや、会社セットアップの準備をしていました。ご縁あって、創業当初からお手伝いさせてもらっているシンプルフォーム株式会社一軒家オフィスのお部屋を借りて、議論を続けていました。

創業準備中の議論メモ

さあ準備していくぞ!モードの2023/3に、当時在籍していたメルカリグループで辞めることを社内発表をして頂いたのですが、その翌週にshingo 交通事故に遭うという、いきなりのハードシングスがありました。家族、両親、兄弟などが浮かぶ中で、takashiさんの顔が浮かびました。。全ての事故関係者を含め、幸いにして命に別状はなく、自分の左腕骨折のみですみました。交通事故から半年、リハビリと禁酒生活ですが、ホッとしています。

何が起こるか分からないので、後悔しない生き方をしようと強く想いました。

また退職する前日まで、Crypto, Web3のイベントに登壇していたので、頭をリスク・セキュリティに切り替えるのは地味に大変でしたw

IVS Crypto Kyoto 2023 / Cryptoの重鎮とオフレコな内容のみ話しました

Lensの事実上のDay1を、イベント登壇もあり京都のホテルで迎えたのですが、ホテルの部屋に折り鶴が置いてあったのもなんだかエモかったです。

Lens Day1 になぜか京都にいる不思議

それでは、1Q-FY2024をプロダクト、ビジネス、コーポレートの3つに分けて振り返っていこうと思います。

・プロダクト

2023/7に入った瞬間、2023/8から初期顧客へのサービス提供が決まったので、顧客提供に向けての追い込みからスタートしました。顧客ヒアリングとその議事録によって、takashiさんが要件をスムーズに固められるように、不十分ですが努めました。

マジで開発スピードが速く、スプリント管理や、チケット管理が綺麗にされていて、すげぇなと思いました。takashiさんと一緒に働きたい方お待ちしてます。

僕の方は、プロダクトに関して営業脳と経営脳を使い分ける必要があり、営業をしていると短期的な視点に陥りがちなところを、takashiさんがいい感じに詰めてくれるので、経営脳に切り替えて判断することができたように思います。

2023/8に顧客提供を開始し、2023/8/中旬にデザインをほぼフルリニューアルしたのは痺れました。顧客要望が出たら即日対応したり、新機能もたくさんリリースし、日々日々プロダクトが良くなっていきました。アイディアを含むチケットも大量に産まれましたし、もっともっと磨き込んでいきたいです。機能要件もさることながら、非機能要件も極めて重要なので、この投資のバランスをしっかりとりながら、プロダクトづくりに取り組んでいきたいと思います。

改めて思いますが、ITのスモールビジネスであるLensは、プロダクトでしか社会対しての存在意義を示すことができない。プロダクトを通して、我々は何者で、何を伝えたいのかを世の中に示していければと思っています。

また、プロダクトの優先順位付はテックカンパニー経営における最重要ポイントなので、これからも悩み、考えながらやっていければと思います。

Lens RM ログイン画面

・ビジネス

やったことは、以下のような内容です。

営業資料の作成、申込書の作成、見積書の作成、請求の作成

初期顧客の利用開始、オンボーディング、サポート

既存リレーション以外のリード獲得、営業再現性確認

営業ブレーキ

営業資料等の作成について

信じ難い話なのですがほぼ作ってませんでした。モックアップとトークのみで打席に立つスタイルですね。当然良くないので、全然完成したと思っていないのですが、作りました。また、これまでの社会人人生で見積書は受け取ったことは数え切れないのですが、作ったことがなくて見積書もらえますか?と言われて焦りました。freeeが全てを救ってくれました。

最初に作った営業資料

初期顧客の利用開始について

ドキドキワクワクしました。何度やってもいいものですね。と同時に、どの程度、どのようなオンボーディングやサポートが発生するかは今後の経営において重要なポイントなるので、プロダクトで解決することと、体制としてカバーすることを分けながら顧客との対話をおこなっています。また、どのような使い方をするかというのは極めてプロダクトに重要な情報になるので、頻度高くコミュニケーションしながら導入をいただきました。やはり初期顧客の方々は共にプロダクトを創った仲間ですし、利用されて初めて価値が産まれるので今後も大切にしていきたいと思います。

既存リレーション以外のリード獲得について

Lensの将来性を考える上で重要だと思っていました。大企業向けの営業は、スケールフェーズにはインバウンドセールスとかイベントとかあると思いますが、立ち上げ時は創業者リレーションでどこまでいけるのかというのが大事なポイント。幸いこれまで多くの大企業の皆さまの色んなレイヤーの方々とお話ししてきましたが、2つ確認しないといけないことがありました。

1つ目は、窓口が違う場合にライトパーソンまで行けるのか。もう1つは、既存リレーション以外でリード獲得ちゃんとできるのか。

1つ目は、これまで接してきた方々の担当部門とは異なり、リスクやセキュリティ部門の方々とお話しすべきプロダクトなので、ライトパーソンにしっかり繋がりを持てるのかがチャレンジでした。結果的に皆さん優しく繋いでくださり、一旦ホッとしています。

もう1つは、既存リレーションだけだと、すぐリードは枯渇するので、リレーション構築の再現性の確認が重要でした。色んな方々を辿っていけば繋がれることがわかり、一旦ホッとしました。ここ数年のコロナ禍や、どちらかというと社内を向いて仕事をしていたのでやや心配でしたが、まだまだ現役営業としていけそうです!

国内事業者で、最も2線人材にアクセスを持つ会社になれるんじゃないかなと手応えを感じております。多くの会社が注力しないといけないが、人材が枯渇気味の2線部門へのアクセスは今後の会社のアセットになるといいなと思っています。

営業ブレーキについて

営業脳でいると、一気に多くの会社に行きたくなるのですが、立ち上げ時にはこれが必ずしも良いことではない。特に大企業向けのプロダクトだと、プロダクトへすぐに反映すべき話と、そうではないものの切り分けをするために、要望の裏にある背景などを知る必要があります。そういう声をしっかり聞いていくためにもどんどん新規リードに行かないようにブレーキをかける必要がある。感覚としては営業全体でかけた時間は4割程度、その中で新規リードは2割くらいの感覚で営業活動をおこなっています。

昔は、どんどん外へ飛び出して、色んなところで色んな話を聞いてというスタイルでやっていましたが、敢えて抑えるということを意識しています。

・コーポレート

やったことは、以下のような内容です。

なお、会計税務は自前、法務は法律事務所に最低限で顧問契約、労務は社労士法人に委託という形で今はオペレーションしています。

ガバナンス: 定時株主総会、取締役決定、臨時株主総会、情報セキュリティ委員会開催、社内規程策定

会計税務: インボイス登録、第1期決算、納税、税務申告

人事総務: オフィス開設、労務セットアップ、名刺作成

法務: 利用規約、プライバシポリシー策定、情報セキュリティ基本方針策定

個室付きシェアオフィスを借りました。皆さんからのご厚意であっという間に必要機材が集まりまして、入りきらないほどのご支援をいただきました。本当にありがとうございました。

ガバナンスについて

個人的に楽しかったです。タスクとしては、ドキュメンテーションが主ですが、後から振り返ったり、今後調達する時にも開示するものなので、しっかりと作りました。2人だけの株主総会や情報セキュリティ委員会も絵的には笑えましたが、内容はこれまでの経験からくる知が詰まっていたかなと思います。社内規程については規定するだけでなく、運用が極めて大事なので、Lens の事業ドメインを鑑みても、最重要と位置付けて取り組んでいます。

会計税務について

freeeが神です。実は鬼門になるかもなと思っていました。仲間が増えれば課題は出ますが、ある程度の組織サイズまではいけるという実感が持てました。銀行口座開設時に申し込んだデビットカードもあるので、一部クレジット電文しか通さないサービス以外は取引登録も半自動ですし、請求書発行後の消し込みも自動で感動してます。Origamiの立ち上げ初期は加盟店振込がめっちゃきつかったので、、今のサイズで誇れることではないですが、月次は月初即締めれる状態で、これがいつまで続けられるかを意識していきたいと思います。

一番大変だったのは、印刷です。税務申告をeTax, eLTaxで行えばよかったんですが、税務署、都税事務所に持ち込み申告したせいで、プリントスキルの無さに泣けてきました。PDFに上から文字を書いた時に、Mac上は記載されているのに印刷するとうつらない問題がトラウマです。

人事総務について

社会保険周りは勝手知ったる社労士法人の方で対応くださりスムーズでした。オフィスを借りるときに内見に行くのも楽しかった。窓がないと安いのですが、マジで窓は必須だと思います。窓なかったら多分自宅で仕事するので借りる意味もないのかなと思い、窓ありの個室シェアオフィスを借りました。逆に共用部分はほぼ使わないなと思いました。takashiさんの名刺を作っていなくて出す名刺がないの笑いました。ロゴも何もないので、名刺屋さんのWeb画面で必死にデザインしました。欲しい方は、名刺交換しましょう!いつか、かっこいい名刺を作りたいなと思っています。

法務について

利用規約やプライバシポリシーなど、事業内容に依存するものが多かったので、けっこう大変でした。改正個人情報保護法や、取り巻く環境が変わってきていますし、Lens の事業ドメインを考えるととても重要だったので時間をかけました。サービス提供者としてどうあるべきなのかというところを深く考える機会になりましたし、今後も継続的に考えていくことになると思います。また、セキュリティ周りに精通している弁護士を探す必要があるなとも感じています。昨今急速に盛り上がっているが故に、専門性を持った法務人材が必要とされていると思いますが、なかなか探すのが大変だなと思いました。

逆にやらなかったことは、ファイナンスです。エクイティによる調達もそうですが、行政の制度融資も検討しましたが結果やめました。ざっくり以下のようなことをしました。

ファイナンスについて

エクイティファイナンスでは、Origamiの時にファイナンスをやっており、メルカリの時にもM&Aをしばしば検討していたこともあり土地勘が比較的あるのですが、辞めることを聞いたり察知して連絡をくれたVC・投資家の方々との面談をさせてもらったり、逆にこれまで縁のなかったSaaS強そうなVCにはお声がけさせてもらいお話をさせてもらいました。

とても有益な時間でしたし、今後どこかでお世話になることもあると思っていますが、一旦は今じゃないと決めました。

エクイティファイナンスは、事業成長スピードを上げるための手段なので、創業して数ヶ月から半年スパンにおいては、ファイナンスへのアテンションコストを鑑みると、プロダクトや初期顧客への向き合いに集中した方が良いという判断をしています。

2012年から2013年頃に、シード・SeriesAを体験した身としては、総じて投資家めっちゃいる!色んなサポート機能をもっていると売り込むような姿勢のところが多くて、正直びっくりしました。随分と調達環境も変わったと改めて体感しました。USと比べればまだまだファンドサイズが小さいのかもしれないですが、過去の日本と比べれば大きくなっていますし、投資家もとてもたくさんいます。ドライパウダーの話もあり、市況は不透明ではありますが、調達環境はとても良いという所感です。ただ、走り出した列車は止まれないのと同じで、スタートアップのエクイティファイナンスは走り出したら止まれない部分があるので、元々狭き門で投資家もまだまだ少ないミドル・レイターを睨みながら調達のスタートは切るべきだと思っています。事業が立ち上がるまでに必要な時間やCapitalがどの程度かを睨みながら、考えていきたいと思います。

デットファイナンスについては、行政の制度融資を検討しました。おそらく今は多くの自治体で創業支援融資というものがあり、Lensは渋谷区に本店があるので、渋谷区役所に足繁く通いました。具体的には以下のような条件の融資が得られます。

渋谷区の創業支援資金の制度融資内容

ベンチャーデットが話題ではありますが、調達金利が段違いに安いです。一般的な金融機関だと、金利5-7% + アップサイドとしてSO付で、条件提示される話も聞きます。この制度融資は創業1年以内に限られますが、負担金利0.1% + 保証協会付なので保証料が0.5%の負担金利0.6%で、2,000万円を上限に融資を受けられます。自己資金と同額という条件があるので、自己資金2,000万円を用意できると、4,000万円をキャッシュを持って創業することができます。一般的なシードラウンドで、10–20% Dilutionすることを考えると遥かに良い条件と思います。ただし、保証協会付になり、経営者保証がほぼ必須になるところは留意が必要です。

行政から斡旋書を出してもらうために、研修のようなものに参加する必要があり、4–5回、行政が委託している中小企業診断士の先生と面談をして、事業コンセプトや事業計画を作っていく形となります。事業計画等に慣れた人であれば、元々ある事業計画をフォーマット変更するという作業を初回面談でやると、あとは雑談的な感じでした。ちなみにこのフォーマット変更がちょっとめんどくさいです。Wordに転記したり、Excelでもトリッキーなフォーマットだったりしますw

で、こちらも結論やめました。想像以上に、今の時代、IT企業のセットアップコストが過去にも増して安く、ありがたいことに初期顧客も見つかっていたので、短期的な資金ニーズがなくなり、誠意を持って斡旋書を返還いたしました。

・今後について

現時点では、事業CFの中で投資をしていく方針で経営をしています。幸いなことに事実上の最初の四半期から黒字化しており、どのタイミングでファイナンスでレバレッジを効かせて、攻めるのかを見極めていきたいと思います。このタイミングでの黒字はほぼ意味はないですが、プロダクトを最速で磨き込みながら、少しずつPLを大きくしていきたいと思います。

不確実な事象に対する判断の積み重ねが経営だと思います。が、まずは土台を固めるために不確実な事象の検討範囲をできる限り狭めて、良いプロダクトを創り、安定して提供できるように努めていきたいと思います。

創業メンバーとなる仲間を探していこうと思っていて、最初はエンジニア中心になると思いますが、ご興味がある方いらっしゃいましたら、お気軽にDMください。

Twitter: @smcpglf / Facebook: Shingo Fushimi

Amazon ウィッシュリスト

Shingo Fushimi | 伏見慎剛

Lens, Inc. Co-Founder & CEO | ex. メルカリ、メルペイ、メルコイン、Origami、リクルート。 大垣共立銀行の顧問、シンプルフォームのアドバイザー